◆田んぼだより

平成22年3月号

《集落の伝統生活行事・野兎駆除》

自社田んぼのある、新潟県十日町市松之山。今年は久しぶりに積雪が4mを超える雪多い冬でしたが、3月に入り天候もやっと落ち着いてきました。雪解けを待ち、代掻き(田掻き)をして田植えの始まりですが、その頃には、野ウサギやキツネが田や畑にいたずらをします。その野ウサギを追いやすい雪山のうちに、ハンターたちと狩り(駆除)に行くのが集落の暮らしを守る伝統行事です。朝8:30集合で集落の若い衆(?)が中心になって作戦会議のあと、いざ出陣です!

里山の四方の麓から、手分けして同時に声を張り上げながらゆっくりと登ります。4mの深雪の下は、いつも田植えをしている田んぼです。もちろん「かんじき(竹製)」を履いて、白銀の中にわずかに色が違う白いウサギをさがしながら、仲間ともはぐれないように。

かんじきは直径約40p、歩くと30pくらい雪に埋まりますから足取り重く、一歩の歩みが身をもって感じられます。でもかんじきが無いとからだごと埋まってしまう深雪なので大切です。急斜面になると両手をついて四本足になった気分で必死に登りながら声を張り上げて、山頂で待つハンターのところにウサギを追いあげます。するとたまに聞こえる銃声にカツを入れられるように元気が出てもうひと頑張り。

山頂まで辿り着くと先ほどの銃声の成果の獲物(ウサギ)に出会えて達成感。複雑な思いもありますが、私たちの米や農作物を守るためには害獣たちとの戦い、食物の奪い合いですから仕方がない。なるべく多くの害獣(ウサギ)駆除をめざして半日山を駆けめぐりました。

今年は途中から大雨になり、びしょぬれの姿でかんじき履いて険しい雪山を登っていると、まるで人生を歩んでいるようです。まっさらな新雪に、自分の歩いた後にだけ足跡が残る。この先のゆく道は自分で選び一歩ずつ踏み出してゆく。つらそうな道には獲物がいそうな、楽な道の方がもっと先まで行けそうな。そんな心の葛藤と、ふとももの限界という現実を癒してくれるのは獲れた獲物でした。そんな人間本来の動物性を感じながら「草食系」なんてホントにいるのだろうか?と思いました。

夕方からは今日獲れた9把のウサギをうさぎ汁と刺身にして、今年の豊作祈願の集会です。集落のおかみさんが総出で調理、集落みんなが集まって昔話や暮らしの知恵の伝承の場となりました。高齢過疎化が進む集落ですから、10年前から参加している私がいつも最年少です。地元の若い(ホントに)衆が出てきてくれるまで、よそ者ながら、集落の伝統行事を支えていきたいと思います。  

                       店主 岡野真吾